浮気調査

探偵小説 ケース1 「懲りない旦那」


探偵小説 ケース1「懲りない旦那」

 

 

40代後半の奥様からご主人の浮気調査の依頼。

依頼内容は、

「数年前に旦那の浮気を見つけた時、浮気相手も交えて、話し合いをした結果、浮気は止めて、もう相手とは会わないと約束したのに、懲りずにまた同じ相手と浮気をしていると思う。もし、浮気をしているのなら、離婚したい・・・。旦那と浮気相手に慰謝料を請求する為、証拠が欲しい!」との事。

ご主人はバイクで通勤しているので、調査員もバイクを使用しての調査。

調査初日

午後5時、ご主人(以下、対象者と記す。)の勤務先周辺にて、調査を開始。

オフィスが入っているビルの前には対象者のバイクが止めてあった。

対象者はバイクで動くのか、又は徒歩やタクシーで移動するのか。

浮気相手が車で迎えに来る可能性も・・・。

対象者の仕事は、事務職。

定時終わりだと、そろそろ出てくる時間である。

とその時、対象者がオフィスビルより出てきた。

対象者は、オフィスビルより出ると、止めてあったバイクに乗り、池袋方面へ。
運転は荒く、とても急いでいるのか信号無視を繰り返す。
池袋駅西口周辺に在るビルの前にバイクを止め、ビルとビルの隙間を通り、建物の裏側に入っていく。

ビルの裏側は、ひと1人分程の幅で、先は行き止まりになっており、対象者は突き当たったところに座りこんだ。
調査員はビルの正面で待機。

約5分後、女性(以下、女性Mと記す。)が池袋駅方面より徒歩で現れ、対象者と同じく、ビルの裏側に入って行った。

対象者と女性Mはこの場所で密会をしているようだ。

確かに誰にも見つからないが、もし、ビルの関係者が来たら、どうするつもりなのだろうか?など考えながら張り込みをしていたところ、約30分後に2人揃ってビルの裏側から出てきた。

ビルの裏側から出てきた対象者と女性M。

対象者はバイクに乗り、自宅方面へ帰って行った。

調査員は、女性Mの自宅を判明させるため、女性Mを追う。

女性Mは、池袋駅から電車を乗り継ぎ、自宅へ帰っていった。

女性Mの住所を割り出したところで、調査初日は終了。

調査員は、オフィスへ帰る。

 

オフィスに戻った調査員は、調査初日で撮影した証拠画像の編集作業を終え、

依頼者に電話で報告。

女性Mの顔写真を依頼者の携帯電話に送信し、顔を確認してもらうと、

やはり、以前の浮気相手と同一人物だった。

依頼者によると、対象者と依頼者が結婚前のまだ恋人だった当時、同じような場所で行為をしていたので、2人はそのビルの裏側で行為をしているに違いないと。

信じがたい事実・・・。

依頼者は、怒りがおさまらず、対象者に問い詰めると言ったが、

まだ、確実に慰謝料を取れる証拠が揃っていない・・・

ビルの裏側で密会をしていたからといって、不貞の証拠ではない。

裁判になった場合、女性Mから慰謝料が取れない可能性がある。

依頼者には証拠を入手するまで、何とか我慢をしてもらうことになった。

依頼者への報告を終えると、調査員たちは、オフィスにて今後の調査における作戦会議を行った。

 

「作戦会議の内容」

ビルの裏側で2人が行為をしていると仮定して、不貞の証拠を押さえるには、

いくつかの壁がある。

まず、ビルの敷地内は私有地で、調査員は無断で入ることができない。

ビル関係者と交渉し、許可を得なければならない。

許可をもらって、ビルの裏側に入れたとしても、そこは行き止まり・・・

対象者達に見つかってしまう。

前もって、隠しカメラを設置すれば・・・

カメラを隠す場所が一切ない。

様々な理由からビルの裏側での不貞の証拠はあきらめ、ホテルに入るまで待つ事になった。

依頼者によると、前回の浮気を知ったのはホテルに入るところを、依頼者の友人

が偶然見かけたからだったらしく、今回も必ずホテルに行くはずだと読んだ。

調査員は、作戦会議の結果を受け、対象者達がホテルに入るところを押さえるため、

粘り強く調査を繰り返した。

調査2日目

この日も対象者と女性Mは池袋のビルの裏側で密会、時間は約40分。

調査3日目

この日も同じく対象者と女性Mは池袋のビルの裏側で密会。約30分。

調査4日目

この日は、仕事終わりに何処にも立ち寄らず帰宅。2人は会わなかった。

調査5日目

この日、雨が降っていた為、対象者は電車で出勤したと依頼者から連絡を受ける。

チャンスかも・・・。

雨の中、ビルの裏側で行為はあるのか?

ホテルの可能性?

調査員は期待?を胸に、対象者達を追う。

対象者は仕事終わりに、電車で池袋へ。

池袋駅周辺で、女性Mと合流し、2人は居酒屋へ。

居酒屋では、2人ともお酒を注文し、ハイペースでグラスを空けていきながら、

会話を楽しんでいる。

依頼者の要望でリアルタイム報告を行いながら、調査を進めていく。

対象者は、電話で依頼者に、

「今日は、仕事の付き合いで飲みに行くから帰りは遅くなる。」

と言っていたそうだ。

依頼者は調査員に

「何が仕事の付き合いだ!こっちは居酒屋で食事なんて、何年もしていないわ!

コツコツと節約しているというのに・・・。お願いです!

誰がいくら払うのか見ていてください!」

と注文。

電話口で依頼者がイライラしているのがわかる。

数時間後、

会計は7.860円。対象者が全て支払を済ませた。

居酒屋より出ると、入る時には振っていた雨が止んでいた。

2人は少し距離をあけて歩く。

 

居酒屋より出、ホテル街へと足を進める2人。

ホテルが見えてくると、対象者は周りに注意を払うように、キョロキョロと

警戒する。それはそうだろう。前回、この瞬間を見られて見つかったのだから当たり前の行動である。

キョロキョロと警戒をしながらも、まずは対象者がホテルに入る。

その5メートルほど後ろを歩く女性Mが続けて入る。

ホテルの中で再度、合流し、部屋を選ぶ。

一連の流れは撮影済。

調査員は、ホテルの外で張り込む為、本部に連絡し、張り込み用車両を手配し、

車両の中から2人が出てくるところを押さえる。

その後、女性Mを追い、自宅に入るまで、押さえ、調査終了となる。

この流れを、全て押さえる事により、“言い逃れのできない”「勝てる証拠」になるのだが・・・。

 

裁判ではホテルに1回入ったからといって、不貞があったとはならない。

「気分が悪く休憩していた」

「何もなかった」

など、なんとでも言い逃れが出来てしまう。

状況にもよるが、ホテルを利用した場合の証拠は2~3回押さえる事が必要である。

2~3回の証拠があると、裁判所は、不貞があったとみなす。

(1回の証拠で負けた判例アリ)

15分ほどして、ホテルの外に張り込み車両が到着、調査員は乗り込み、依頼者に電話をする。

 

調査員は、電話で依頼者に現状を報告する。

電話口で依頼者は激怒。

「もう、我慢できない。裁判でなく話し合いで解決する。もし、裁判になって慰謝料が取れなくてもいい。今、我慢する方が後悔しそう。2人がホテルから出てくるところを待ち伏せしたいから、ホテルを教えて!」

20分ほど、話し合った結果、依頼者が現場に来ることになった。

調査員は、依頼者にいくつかの注意事項を告げる。

その中でも、絶対に女性Mに触れない事(軽くでも触ると、暴行罪になる恐れがある為)

を強く告げた。

約1時間後、依頼者がホテル周辺に到着、張り込み車両に乗り、再度、注意事項の確認。

思っていたより冷静で少し驚いた。その後、2人が出てくるのを、車内で依頼者と一緒に待つ間、会話は一切なかった。

 

2人がホテルに入ってから約3時間が経過しようとしていた時、

2人が出てきた。

まずは、女性Mがホテルより出、2メートルほど距離をあけ、対象者が出てきた。

もちろん、撮影成功。

依頼者はゆっくりと車のドアを開け車から降り、2人の元へ向かう。

車内からその様子を撮影している調査員の手は、汗でびっしょりと濡れていた。

依頼者は、2人の前に立ち、小さな声で、力強く言った。

「あなた達、懲りないわねぇ。」

周辺の雑音が、一瞬ストップしたかのように、離れた車内にいる調査員にもはっきりと聴こえた気がした。

こんな時に、ここまで冷静になることが出来る依頼者を、調査員は尊敬した。実際に自分が同じ境遇に立った時、同じような対応ができるのだろうか?自信がない・・・。

依頼者の冷静な姿を目の当たりにした調査員は、

「もう、大丈夫だろう」と判断し、ビデオカメラの録画を停止させ、オフィスへとハンドルをきった。

後日、依頼者から電話があり、報告を受けた。

あの後、話し合いが行われ、依頼者は対象者と離婚。財産分与・慰謝料共に希望通りになった。

女性Mに対しては、慰謝料を請求。裁判にはならず、示談で希望額を支払ってもらった。

まさに、依頼者が描いた理想通りの離婚となった。

これはいろんな意味で稀なケースである・・・。

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