証拠

罪とバツ~証拠隠滅罪~


刑法第104条 証拠隠滅罪

 

証拠隠滅罪とは、

他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者

に適用されます。

 

ガラスのヒビ

 

 

バツは、

2年以下の懲役又は20万円以下の罰金。

 

バツサインを出す女性1

 

 

証拠隠滅罪は、刑事事件のみに適用されます。

民事事件では問えません。

 

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探偵小説 ケース6 「“いじめ”」


探偵小説 ケース6 「“いじめ”」

 

 

梅雨が明け、本格的な夏が顔を出し始めた7月下旬、調査員は、事務所のデスクで、昨夜の浮気調査の調査報告書を作成していた。

 

 

困ったことに朝、出勤してきてエアコンをつけたところ、エアコンが全く動かない。

リモコンの電池を変えてみたり、電源アダプタを抜き差ししてみたり、エアコン本体を叩いてみたり・・・

 

 

故障・・・・・。

 

 

この暑いのに、エアコンの故障なんて全くついていない・・。

しかもこのエアコンを購入したのは、まだ2年ほど前のこと・・。

特売店で購入したので、保障期間は1年で切れている・・。

新しく買い替えるには、早すぎる・・。

長期保証に入っておけばよかった・・。

 

 

調査員は、2年ほど前の判断と行動に反省しながら、エアコンの修理業者に電話してみる。業者によるとエアコンの修理依頼が立て込んでいて、修理に来れるのが、2週間後だという。

 

 

何社か、電話してみたが、どこも同じような対応で、やはり2週間は待たされる。

この時期は、エアコン修理業者の繁忙期らしい。

調査員は、あきらめ、2週間待つことにした・・・。

 

 

いや、このまま待てるわけがない。

 

 

調査員はすでに汗だくで、こんな状況でまともな調査報告書が作れるわけがない。

 

調査員は、事務所の近くにあるリサイクルショップに行って、中古の扇風機を購入、

あと2週間、なんとかこれで乗り切ろうと決めた。

 

 

調査報告書の作成を始めてから3時間ほど経過したころ、調査員の携帯電話が鳴った。

携帯電話の画面には、「小島様」(仮名)と表示されていた。

小島様は以前の依頼者(女性)で、5年ほど前に浮気調査を依頼、その後、離婚が成立し、人生の再スタートを切った依頼者だった。

 

 

調査員「お久しぶりです。」

小島様「お久しぶりです。お元気ですか?その節は大変お世話になりました。」

調査員「こちらこそ、お世話になりました。皆様おかわりございませんか?」

小島様「・・・」

調査員「小島様?」

小島様「・・・相談したいことがございます。」

 

 

調査員は、何かを察した。小島様は深刻な悩みを抱えている・・・。

 

 

調査員「かしこまりました。では、一度、事務所に来ていただく事は可能でしょうか?」

小島様「はい・・・。明日、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

調査員「かしこまりました。明日ですね。お時間は何時頃がよろしいですか?

私は何時でも大丈夫ですが。」

小島様「では、午前11時でお願いします。」

調査員「それでは、明日11時にお待ちいたしております。」

 

 

 

電話を切った調査員は、頭を抱えた・・・。

 

エアコンが故障している・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

翌日は、まだ午前中だというのに、前日に勝るとも劣らない暑さで、扇風機1台で事務所内を快適な空間にするには不可能だった。

 

調査員は、冷たいお茶とうちわを用意し、小島様の到着を待った。

 

 

午前11時ちょうどに、事務所のドアがノックされた。

小島様「失礼いたします。」

調査員「どうぞ」

小島様「お久しぶりです。」

調査員「お久しぶりです。」

 

 

挨拶もほどほどに、調査員は、エアコンの故障の事実を伝え、うちわを手渡した。

 

 

調査員「それで、早速ではございますが、どうかされましたか。」

小島様「じつは・・・・・・。」

調査員「・・・・・・」

小島様「ゆうき(仮名)の事になるのですが・・・。」

調査員「ゆうき・・・くん?」

小島様「はい。」

 

 

小島様には、5年前、当時3歳の息子が一人いた。

 

 

小島様「はい。小学校3年生になりました。」

調査員「そうですか。ゆうき君がどうかされましたか?」

小島様「はい。こんなことを探偵さんに相談して、何とかなるのかわかりませんが・・・」

調査員「どうぞ、遠慮なさらずに相談してみてください。」

小島様「じつは、“いじめ”られているみたいで・・・・・。」

調査員「“いじめ”・・・ですか。」

小島様「はい。」

調査員「どのような“いじめ”でしょうか?」

小島様「それが、目に見える“いじめ”の形跡はないんです。

ただ、精神的にというか、言葉の“いじめ”みたいなんです。」

 

 

詳しく話を聞いてみると、小島様の息子、ゆうき君は、同学年の男の子と女の子の数名から、言葉の“いじめ”を受けているようだった。

 

言葉の“いじめ”の内容は、

「死ね」

「早く死ね」

「息するんじゃないよ」

「なんで学校に来るの?」

「いつ転校するの?」

 

など、酷い言葉を毎日のようになげかけられるそうだ。

 

小島様はゆうき君本人から、その事実を聞き、一緒になって涙を流したそうだ。

 

調査員にも子供がいる。

 

もし、自分の子供が同じ目にあっていたらと思うと、涙が出そうになる。

 

“いじめ”は昔から無くなる事はなく、常に問題になっている。

 

“いじめ”が原因で命を落とす子供が増えている近年、“いじめ”の方法も悪質になってきていると聞いたことがある。

 

 

ある“いじめ”グループでは、“いじめ”を実行するにあたり、“いじめ”グループメンバーで作戦会議を行い、どうやって証拠を残さずに“いじめ”を実行するかと、子供ながらに真剣に考えて、“いじめ”を実行するらしい。

 

 

なので、第三者から見ると、“いじめ”の加害者と“いじめ”の被害者は仲の良い友達同士に見える。

 

 

“いじめ”を受けた子供は、必死になって“いじめ”の事実を担任教師に説明するが、

証拠がない為に、真剣に話を聞いてくれないそうだ。

“いじめ”の加害者と“いじめ”の被害者の親同士は仲が良いので、“いじめ”の相談を親に話しても伝わらないし、信じてもらえない。

 

 

“いじめ”を受けている子供は、“ひとり”になってしまう・・・。

 

 

その結果、取り返しのつかない事態になってしまう・・・・・・。

 

 

“いじめ”を受けている子供が、真っ先に助けを求めるのは親であり、一番頼りにしているのも親である。

 

その親が、子供の悩みを真剣に聞いて、親なりに考えて、探偵に助けを求めに来た。

探偵は、その親の“ちから”になってあげることができる知恵を持っている。

 

 

小島様には、“いじめ”の調査と対策を行うにあたり、リスクがあることを説明した。

 

 

“いじめ”の調査と対策の主なリスク

  1. “いじめ”を目の当たりにする事になるが、しっかりと気を持って、証拠が揃い、調査が終了するまで、動かずに我慢しなければならない事。
  2. “いじめ”がなくなった後、ゆうき君は学校に通いづらくなる可能性がある事。

 

 

場合によっては、転校も視野にいれておかなければならない事。

 

小島様はリスクを理解したようで、真剣な面持ちで、

 

 

小島様「“いじめ”から逃げずに、戦いたいです。」

調査員「小島様、逃げることが決して悪い事ではなく、時には逃げる事を優先する事も大切ですよ。心に深い傷を負うぐらいなら逃げた方がいい。」

小島様「・・・わかりました。自宅に帰り、ゆうきとしっかりと話合い、ゆうきの意思を確認してから、依頼したいと思います。」

と言って、帰って行った。

 

 

 

小島様が帰った後、汗でびっしょりになった調査員は、子供に戻ったかのように、

扇風機の前に座り込み、扇風機の風に向かって、

「あ~~~~~~~~~~」

と力いっぱい叫び続けた。

 

 

 

翌日、さらに暑さを増した日、事務所内は外よりも、さらに暑くなっていた。

小島様より、連絡があり、ゆうき君も戦いたいと言っているという。

調査にはゆうき君の協力が必要になるのだが、その件に関しては、

ゆうき君が「任せてよ!」と力強く言っているという。

ゆうき君の一言で、調査員たちは励まされ、エアコンが故障している事も忘れ、

一丸となって、作戦会議に力を注いでいる。

 

今回の“いじめ”の調査と対策の予定は以下のとおりである。

 

  1. “いじめ”の証拠収集
  2. “いじめ”メンバーの特定
  3. “いじめ”の証拠をもとに、教師・加害者の親との話し合い。

 

 

 

まずは、証拠収集から。

ゆうき君の話によると“いじめ”が行われるのは、登下校中で、“いじめ”の加害者は、学校内では、仲の良い友達を演じてくるらしい。

 

証拠の収集方法は音声の録音と動画の録画の両方を行う。

 

音声の録音方法は、ゆうき君の鞄に特殊なICレコーダーを取り付け、“いじめ”の加害者が発する酷い言葉を録音する。その際、ゆうき君には、録音の妨げにならないように、できるだけしゃべらずに、静かにしてもらう。

 

同時進行で、調査員が、ゆうき君を尾行し、“いじめ”の加害者たちがゆうき君に近寄って、酷い言葉を発している姿をビデオカメラで撮影をする。

 

 

“いじめ”の証拠には、継続して“いじめ”があったという証拠が必要である。

月曜日から金曜日までの5日間、ゆうき君には、協力してもらう事となった。

もちろん、辛くなったら無理せずに中断する事をゆうき君と約束をした。

その際、ゆうき君は笑顔で

 

ゆうき君「うん。わかったよ。でも、僕は最後まで我慢するから大丈夫!」

 

と、力強く言った。

 

 

 

調査員は、証拠収集の5日間の毎日、“いじめ”を確認した。

何度も、“いじめ”の加害者たちに注意しようとしたが、ゆうき君の頑張りを無駄にすることを調査員がしてしまっては、元も子もない。

 

ゆうき君は見事に5日間、我慢を続け、立派な証拠を入手する事に成功した。

録音された“いじめ”加害者たちの言葉は、想像していたよりも酷く、

内容も段々とエスカレートしていた。

 

小島様には、できれば今は録音された内容を聞かない方がいいと説明したのだが、

 

小島様「ゆうきが一生懸命頑張って、録音してきた証拠ですから、親である私が聞かないわけにはいきません。」

 

と、イヤホンを手に取り、録音された“いじめ”の言葉に耳を傾けた。

 

 

涙を流しながら全ての“いじめ”の言葉を聞いた小島様は、

イヤホンを外し、1時間泣き続けた・・・。

 

“いじめ”のメンバーの特定は、ゆうき君からの聞き取りで、メンバーをリスト化、

録音データと動画データをリンクさせ、わかりやすくまとめた。

“いじめ”のメンバーは、男の子4名と女の子3名の合計で7名。

 

 

教師・7名の親との話合いの方法はいくつかあるが、小島様は、できれば転校させずに、

子供たちとも仲直りして、“いじめ”を無くしたいのでと、話合いは、担任以外の教師や

他の子供たちには内密に行いたいとの意向。

 

 

作戦会議の結果、小島様が担任教師と7名の親に手紙を書く事にした。

手紙の内容は、

・“いじめ”が実際にある事。

・ことを大げさにしたくない事。

・子供たちには、できれば仲直りをさせたい事。

・次の日曜日に小島様の自宅で話合いの場を設けたい事。

 

 

手紙は、小島様がそれぞれを訪れ、手渡しで渡していく。

 

 

この行動は小島様が自ら提案した。

 

 

今回の一件で、小島様はゆうき君からいろいろな事を教えてもらったと言う。

 

 

「親よりも子供の方が、しっかりしているなんて、情けない。私がゆうきの為にしてあげれる事は、できる限りしてあげたい。」と。

調査員も、ゆうき君には沢山のエネルギーをもらった。

ゆうき君に何かお礼をしてあげたいが、今の調査員にしてあげれることはなく、

あとは、話合いがうまくいくことを願うばかりである。

 

 

 

あれから1ヶ月。

残暑が厳しくなってきてはいるが、修理して直ったエアコンのおかげで、事務所内には、快適な空間が存在していた。

 

たるんだ体を鍛えようと、バーベルを使い、筋トレをしていた調査員の携帯電話が鳴った。

画面には小島様と表示があった。

 

 

調査員「お世話になっております。」

ゆうき君「探偵さん。ゆうきだよ。」

調査員「ゆうき君。こんにちは。」

ゆうき君「こんにちは。探偵さん、今度の日曜日だけど空いてる?」

調査員「今度の日曜日?」

ゆうき君「うん。」

 

 

調査員は、スケジュール帳を開き、確認した。

 

 

調査員「空いているよ。何かあるの?」

ゆうき君「じゃあ、お昼の1時に家に来てね。ばいばーい。」

調査員「えっ?ちょっ・・」

 

 

電話は切れていた。

 

 

日曜日、約束通り?お昼の1時に小島様の家を訪れた調査員は、インターホンを押した。

対応してくれたのは、ゆうき君。

 

ゆうき君「探偵さん?いま開けるね。」

 

と笑顔で家に招き入れてくれた。

 

 

家の中では、パーティーが行われていて、何も聞かされずに招かれた調査員は、ひとりスーツ姿で完全に浮いていた。

 

 

パーティーの参加者は、今回の“いじめ”の当事者たち全員。

小島様、ゆうき君、7名の子供たち、その親たち、担任の教師、探偵。

子供たちの楽しそうな顔を見ていると、この1か月間、とても有意義な話合いが行われたのだろうと、すぐに察しがついた。

どんな話し合いが行われたのか、気になってはいたが、そんな事は、どうでもよくなり調査員も童心に返り、子供たちと一緒になって遊んだ。

 

 

将来、この中から探偵になりたいと思ってくれる子供が一人でもいればと、つまらない事を夢見る調査員であった。

 

 

終。

 

 

 

追記

 

“いじめ”は、

“いじめ”を受けている子供だけでなく、

“いじめ”を行っている子供も、心に深い傷を負います。

 

子供たちだけで解決できる“いじめ”も存在しますが、

大人の力が必要な“いじめ”の方が、多く存在します。

 

助ける事ができる命は多く存在しています。

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探偵小説 ケース5 「繰り返される浮気」


探偵小説 「繰り返される浮気」

 

 

「バンッ」

 

という音と共に、事務所のドアが突然開いた。

 

調査員たちは、全員、ドアの方向に目をやった。

 

そこには、一人の女性が立っていた。

 

 

 

 

 

女性「・・・・・・・」

 

調査員たち「・・・・・・!!!」

 

 

 

 

 

調査員たちには、その女性に見覚えがあった。

 

数年前に調査した案件の関係者。

 

 

 

そう、数年前にある女性からご主人の浮気調査の依頼を受け、調査した結果、

 

ご主人には愛人がいた。愛人とは半同棲のような生活を送っていたので、依頼者は離婚を決意し、ご主人から500万円の慰謝料を受け取り離婚、愛人からは300万円の慰謝料を受け取り、示談したのだった。

 

 

 

その300万円の慰藉料を支払った愛人が今、目の前に立っている。

 

 

 

探偵という仕事がら、逆恨みを買うことはあるが、事務所にお礼参りに来られたのは、

 

初めてだった。

 

対象者が来るならまだ理解できるが、愛人が来るなんて想定もしていない事だったので、

 

調査員たちは、完全に呆気に取られた状態だった。

 

しかし、油断している場合ではない。

 

調査員たちは、ふと我に返り、手を握り締め、腰を低くして構えた・・・。

 

 

 

女性「そんなに構えなくてもいいですよ。仕返しに来たわけではありませんので。相談に来ました。」

 

 

 

調査員「えっ???」

 

 

 

ソファに深く座り女性はゆっくりと話をはじめた。

 

 

 

女性「はじめまして。○○と申します。あなた達は私を見るのは初めてではないでしょうが、私はあなた方を見るのは初めてです。数年前にあなた方のおかげで、300万円の大金を出して男を引き取りました。その節はお世話になりました。」

 

 

 

調査員「・・・。それは、・・」

 

 

 

女性「わかっています。既婚者の方とお付き合いしていたわけですから、自業自得なのは、わかっています。その後、彼の離婚が成立した後、私たちは入籍しました。私が住んでいたマンションで、新婚生活をはじめ、最初の方は良かったのですが、だんだんとマンネリ化してきて、今では冷め切った夫婦になってしまいました。早いものです・・。今となっては、あんな男に大金を払ったことを、後悔しています。今では、恐らくですが、浮気されていると思います。」

 

 

 

調査員「ご自身が数年前にされていたことと同じ状況ですね・・・。」

 

 

 

女性「はい・・・。私も自分がした事が跳ね返ってきただけと、諦めようと思いましたが、なかなか諦めきれなくて、どうしたものかと思い、ふと数年前のことを思い出しました。彼の奥さんが雇った弁護士から見せられた生々しい調査報告書を。

 

あんな調査報告書がなければ、しらばっくれる事が出来たのに・・・。」

 

 

 

調査員「・・・・・」

 

 

 

女性「すみません・・・。私にそんな権利はないのかもしれませんが、私にも証拠という武器があれば、慰藉料を貰って、離婚できるのかなと・・・。」

 

 

 

調査員「・・・・・」

 

 

 

女性「私の主人の浮気調査。受けていただけませんでしょうか・・・。」

 

 

 

調査員「・・・・・」

 

 

 

女性「お願いします。私、人生をやり直したいんです。」

 

 

 

 

 

 

 

数日後の朝、調査員は、女性の自宅マンション周辺にいた。

 

いろいろと検討したが、依頼を受けることに決めた。

 

(以下、女性を依頼者と記す。)

 

 

 

今回の依頼者も、悩みを抱える一人の人間と割り切って判断し、役に立てるのであればと依頼を受けることに。

 

 

 

まずは、いつも通り予備調査から行う。

 

依頼者のご主人(ご主人を以下、対象者と記す。)の面取りから。

 

数年前に調査をしている対象者なので、そんなに変わっている事はないだろうが、

 

念のため、予備調査を行った。

 

 

 

朝、自宅マンションから出てきた対象者は数年前の彼と比べると、少しふっくらと

 

していて、髪形も短髪になっていた。

 

普段なら、顔を確認した時点で予備調査を終えるが、今回の面取りでは、対象者の視界に入らずに確認する事ができたので、調査員は対象者を尾行する。

 

 

 

対象者は、勤務先へと足早に歩く。

 

少しがに股で、靴底を地面にすりながら歩く癖は、依然と全く変わっていなかった。

 

勤務先も依然と変わらず、東京都中央区に所在する貿易会社。

 

 

 

 

 

予備調査を終えた調査員は、事務所に戻り、調査にあたる調査員たちと情報を共有する。

 

 

 

 

 

今回の浮気調査で、依頼者がなぜ対象者の浮気を疑ったかというと、

 

帰りが遅くなったからだという。

 

怪しいメールが見つかったとか、常に携帯電話を持ち歩くようになったとか、香水の匂いがするようになったとか、あきらかに浮気を疑う要素は一切ない。

 

ただ、帰りが遅くなっただけ。

 

 

 

しかし、依頼者は、対象者が浮気をしていると確信していた。

 

理由は「女の勘」だという。

 

この「女の勘」は結構当たるのでバカにできない。

 

 

 

 

 

調査方法としては、調査日を決定する判断材料がないので、月曜日から金曜日までの5日間、勤務先から自宅までを毎日調査することになった。

 

 

 

 

 

■浮気調査1日目(月曜日)

 

対象者の定時は18:00。

 

調査員は18:00から張込みを開始した。

 

18:20頃、対象者が勤務先より出てきた。

 

対象者は、勤務先周辺の立ち食い蕎麦屋に入って、「かき揚げそば」を注文、

 

あっというまに食べ終わり、勤務先へと戻って行った。

 

どうやら今日は残業らしい。

 

22:30頃、残業を終えた対象者は勤務先より出、

 

電車に揺られ、自宅マンションへと帰って行った。

 

 

 

 

 

■浮気調査2日目(火曜日)

 

18:00、調査員は昨日と同様、張込みを開始する。

 

20:00頃、対象者は会社の同僚と共に勤務先より出た。

 

同僚の性別は女性。恐らく部下だろうが、浮気相手の可能性もある。

 

2人は、勤務先より少し行った大通りでタクシーに乗車し、移動を始めた。

 

銀座にて下車した2人は、割烹料理店に入って行った。

 

調査員も時間をおいて、店内に潜入。

 

対象者たちは、店に入って左側の個室にいる。

 

調査員は、個室の出入口を監視できるカウンターに座った。

 

個室へと料理が運ばれる際に個室の中が少しうかがえる。

 

個室には、対象者と同僚の女性、他に男性が2名いる。

 

どうやら、取引先との会食のようだった。

 

店より出た調査員は、店周辺にて張込みを行い、4人が出てくるのを待った。

 

約2時間が経ったころ、4人は店から出てきた。

 

店先で挨拶を交わし、次々とタクシーに乗車していく。

 

対象者と同僚の女性が最後に残ったが、2人も挨拶を交わし、それぞれが電車で帰って行った。

 

浮気相手ではなかったようだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

■浮気調査3日目(水曜日)

 

この日も調査員は18:00に張込みを開始する。

 

18:10頃、足早に勤務先より出てきた対象者は、電車に乗り込み自宅マンションとは、反対方向へと向かった。

 

2駅行ったところで下車し、駅周辺に所在するラーメン店に入った。

 

このラーメン店は、先日、テレビでも紹介され、今では行列のできる店となっている。

 

今日は、比較的すいていたので、待たずに入ることができた。

 

ラーメンを食べ終えた対象者は、また勤務先へと戻っていった。

 

その後、22:00頃に勤務先より出、自宅マンションへと帰っていった。

 

 

 

 

 

■浮気調査4日目(木曜日)

 

調査員のなかでは、対象者は浮気していないのではないか、と言い出す調査員も出てきたが、依頼者は必ず浮気をしていると断言する。

 

 

 

この日、調査員は「女の勘」の凄さを目の当たりにする事となる。

 

 

 

調査員は、いつも通り18:00から張込みを開始した。

 

18:05頃、対象者が足早に勤務先より出てきた。

 

大通りにてタクシーに乗車した対象者は、晴海通りを豊洲方面へと向かう。

 

タクシーは、豊洲に所在するマンションの前に停車した。

 

タクシーより下車した対象者は、マンションへと入っていく。

 

1階はオートロックシステムになっていて、対象者は、インターホンで703号室を呼び出す。

 

 

 

703号室「はーい」

 

 

 

対象者「俺だよ~」

 

 

 

703号室「お帰り~」

 

 

 

インターホンから女性の声が聞こえてくる。

 

マンション内に入った対象者は、703号室へと入って行った。

 

 

 

約5時間後の23:00過ぎ、対象者は703号室より出、自宅マンションへと帰って行った。

 

調査員は、この事をすぐに電話で依頼者に報告する。

 

浮気調査4日目で、浮気の可能性が高い情報や証拠を入手する事ができたので、

 

5日目の調査を中止し、依頼者と作戦会議に入る。

 

 

 

 

 

翌日、早速、事務所にやってきた依頼者は、ソファに深く座り、足を組み、

 

自慢げに話をはじめた。

 

 

 

依頼者「ね!やっぱり、私の勘が正しかったのよ。みなさん、ご苦労様でした。」

 

 

 

調査員「・・・・・」

 

 

 

調査員の顔をみて、依頼者は姿勢を正し、話を続けた。

 

 

 

依頼者「冗談ですよ~。これから、どうすればいいんでしょうか?」

 

 

 

調査員「まずは、女性の素行調査をおすすめいたします。戦う相手になりますので、情報は出来るだけ持っておくことが、賢明だと考えます。」

 

 

 

依頼者「私の時も同じことをしたの?」

 

 

 

調査員「はい。徹底的に調べ上げました。」

 

 

 

依頼者「なるほどね。全く抵抗できなかったわけだ・・・。では、同じようにお願いします。」

 

 

 

調査員「かしこまりました。」

 

 

 

 

 

 

 

翌日以降、調査員は、浮気相手の調査を開始し、情報を入手した。

 

彼女は、銀座のホステスで、月・火・水・金の週4日、お店に出勤する。

 

お店では結構人気があり、毎月の売り上げ・指名本数は上位に位置している。

 

おおよその収入は、想定できるので、慰藉料の請求額を算出しやすいだろう。

 

対象者とは1年ほど前に、お店で知合ったが、現在では一切お店では会わずに、

 

彼女の自宅マンションで密会している状態。

 

 

 

調査員は、不貞の証拠として、毎週木曜日に調査を行い、彼女の自宅に行く対象者の姿をとらえる。

 

この証拠を4週連続で入手する事により、裁判所にも不貞があったと推認される証拠となる。

 

 

 

また、依頼者から土曜日と日曜日の対象者の予定を教えてもらい、怪しいと思われる

 

日曜日に調査を行った。

 

 

 

予定では、車で取引先とゴルフらしい。

 

しかし、行き先はゴルフ場ではなく、浮気相手のマンション。

 

マンション前で、浮気相手と合流し、東京から近い温泉で有名な街へ向かう。

 

 

 

2人は、とある老舗旅館に入り、部屋を予約していたみたいで、「雅(みやび)」という名の部屋に入って行った。

 

 

 

宿泊者名簿には嘘の氏名を記入、女性の氏名の横には「妻」と記載があった。

 

 

 

「雅(みやび)」は、露天風呂が付いている客室で、この日、21時まで、2人は部屋から出てこなかった。

 

 

 

21:00、老舗旅館から出た2人は、浮気相手のマンションに立ち寄り、挨拶を交わし、別れたあと、対象者は自宅マンションへと帰って行った。

 

 

 

 

 

後日、依頼者に聞くと、この日持って帰ってきたゴルフウェアは汗臭かったらしい・・・。

 

対象者もアリバイ工作に必死のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

浮気の証拠は十分に揃った。

 

あとは弁護士と打ち合わせをし、戦略を練る。

 

これも、探偵の仕事である。

 

依頼者、弁護士、探偵が意見を出し合い、依頼者の求める結果をどうやって導き出すか。意見交換を行うのである。

 

戦略が決まり、今回の調査はひとまず終了である。

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後、依頼者から電話で連絡があり、

 

対象者からは、400万円、浮気相手の女性からは150万円の合計550万円の慰藉料の振り込みがあったらしい・・・。

 

 

 

依頼者「なんだか、儲かっちゃったわ。ありがとうね(笑)」

 

 

 

と最後に一言・・・。

 

 

 

最後の依頼者の言葉が、調査員の耳の奥で何度も聞こえてくるようだった・・・。

 

 

 

 

 

数年後、

 

「バンッ」

 

という音と共に、事務所のドアが突然開いた。

 

調査員たちは、全員、ドアの方向に目をやった。

 

そこには、一人の女性が立っていた。

 

女性「・・・・・・・」

 

調査員たち「・・・・・・!!!」

 

 

 

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