探偵は正義の味方?
「探偵は正義の味方ではない。」
これは、私(原田)が創業前に通っていた探偵学校で教えられた言葉です。
講師はこう続けました。
「探偵は中立であるべき。依頼者に肩入れしてはいけない。感情に流されず、ただ事実を集めるのが仕事だ」
と。
理屈としては、確かにその通りだと思いました。
探偵は証拠を扱う仕事です。
どんなにご依頼者様の話に共感したとしても、感情を優先させてしまえば、冷静な判断を失い、調査は崩れてしまいます。
けれど私は、心のどこかでその教えに違和感を抱き続けていました。
探偵に依頼をする方は、多くが人生の岐路に立たされています。
パートナーの浮気に気づいても、確証が持てない。
家族と音信不通になってしまい、どう探せばいいか分からない。
誰かに騙され、お金や信用を失い、それでも諦めきれずに相手の行方を追っている。
相談に来られる方の多くが、「自分だけではどうにもできない」という状況に追い込まれています。
中には、誰にも相談できず、一人で抱え続けてきた思いを、ようやく言葉にする方もいます。
私の前で涙を流しながら、「こんなこと、誰にも言えなかったんです」と話してくださるご依頼者様もいました。
そういった姿を見て、私はいつも思います。
「この人の力になりたい」
私は探偵として、調査対象者に直接怒りをぶつけることも、正義を振りかざして裁くこともできません。
しかし、その代わりに“事実”を突き止めることができます。
言い逃れのできない証拠を押さえ、ご依頼者様が今後の人生を自分の意思で歩めるように手助けする。
それが探偵の仕事だと、私は考えています。
もちろん、「正義」と一言で言っても、その定義は曖昧です。
誰かにとっての正義が、別の誰かにとっては悪であることもあります。
ただ、少なくとも私の中では、“困っている人を見て見ぬふりをしないこと”が、正義の基本だと思っています。
ある浮気調査のご依頼者様は、10年以上連れ添った妻の様子が最近おかしい、と相談に来られました。
仕事終わりに直帰しない、スマホを常に持ち歩く、夫婦の会話が急に減った…。
調査を進めると、男性と密会を重ねていた事実が明らかになりました。
ご依頼者様は証拠写真を見た瞬間、目を閉じてしばらく黙り込み、やがてポツリと「やっぱりそうか…」とつぶやかれました。
その後、慰謝料請求の準備を進めながら、ご依頼者様はこう言いました。
「証拠があったから、冷静でいられた。なければ、怒りに任せて衝動的に動いていたかもしれない」
この言葉は、私にとって非常に印象的でした。
探偵が集める証拠は、依頼者の感情を落ち着ける“道しるべ”にもなります。
悩みの正体をハッキリとさせることで、次に何をすればいいかが見えてくるのです。
それによって、ご依頼者様が自分の人生を自分の力で取り戻していく。
その過程に伴走できることが、私にとって何よりのやりがいであり、誇りでもあります。
私が言う「正義の味方」とは、ヒーローのように特別な力を持つ存在ではありません。
ただ目の前の人に手を差し伸べること。
そして、どんなに小さな声でも聞き逃さないこと。
そんな姿勢を貫くことが、探偵にとっての“正義”だと思っています。
世の中にはいろんな探偵がいます。
学校で教えられたように、感情を一切交えず、ただ結果だけを淡々と出す人もいるでしょう。
それが悪いとは思いません。
むしろ、そうした冷静さが必要な場面もあります。
でも、私は違う道を選びました。
人の気持ちに寄り添い、その人の人生に関わる覚悟を持つ。
そして、どんな依頼であっても「あなたの味方です」と胸を張って言える探偵でありたい。
それが、私なりの「正義の味方」としての考え方であり生き方です。