家庭内暴力(DV)は「家庭の問題」ではない|被害から身を守るために探偵ができること

 

 

 

「夫から暴力を受けているけれど、家庭内のことだから警察には相談しづらい」

「怒鳴られたり、生活費を渡してもらえなかったりするけれど、これもDVなのでしょうか」

 

探偵事務所には、このようなご相談が寄せられることがあります。

 

家庭内暴力、いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)は、決して夫婦喧嘩の延長として片付けてよい問題ではありません。

 

近年は法律も改正され、身体的な暴力だけでなく、精神的な暴力や脅迫、SNSを利用した嫌がらせ、位置情報を利用した監視などについても、被害者を守る制度が強化されています。

 

一方で、実際に警察や裁判所、弁護士へ相談するときには、「何があったのか」を客観的に説明できる資料や証拠が非常に重要になります。

そこで今回は、最近のDVをめぐる状況や法律の変化、そして私たち探偵がDV被害に対して何ができるのかについてお話しします。

 

 

家庭内暴力

 

 

 

 ■DVは「殴る・蹴る」だけではありません

 

DVという言葉を聞くと、多くの人は「殴る」「蹴る」といった身体的暴力を想像すると思います。

しかし、実際のDVはそれだけではありません。

 

例えば、

・大声で怒鳴る
・人格を否定する
・長時間無視する
・「別れるなら殺す」などと脅す
・生活費を渡さない
・お金の使い道を細かく監視する
・外で働くことを認めない
・友人や家族との付き合いを制限する
・スマートフォンやSNSを監視する
・性的な行為を強要する

こうした行為もDVに含まれる場合があります。

 

内閣府の調査(令和5年)では、結婚経験のある人の25.1%が配偶者から何らかの暴力を受けた経験があると回答しています。

女性では27.5%、男性でも22.0%です。

 

さらに、被害を経験した人のうち44.2%が「どこにも、誰にも相談していない」と回答しています。

 

つまり、DVは一部の特殊な家庭だけで起きている問題ではありません。

 

 

暴力を受ける男性

 

 

 

■東京都だけでも年間9,000件を超えるDV相談

 

 

警視庁によると、2025年(令和7年)に東京都で受理された配偶者からの暴力に関する相談は9,336件。

前年より82件増加しています。

 

さらにDV事案に起因する刑法犯や特別法犯の検挙件数は898件で、こちらも前年より2.7%増加しました。

 

相談者の内訳を見ると、女性が7,174人で76.8%を占めていますが、男性からの相談も2,162人で23.2%に上っています。

 

DVというと「夫から妻への暴力」というイメージを持たれがちですが、男性が被害者になるケースも決して珍しくありません。

 

また、内閣府によれば、DV相談の約7割には精神的DVが含まれています。

 

外から見える怪我がなくても、深刻なDVが続いている家庭は存在するのです。

 

 

DV

 

 

 

 ■DVが重大事件に発展することもある

 

 

DVの怖さは、暴力が次第にエスカレートする可能性があることです。

 

最近、大きく報道された事件の一つが、海外で日本人女性が殺害された事件です。

2025年1月、当時43歳の日本人女性が自宅の火災現場で死亡しているのが発見され、その後、元夫が逮捕されました。

2026年8月、現地検察は元夫を計画殺人の罪で起訴しています。

報道によれば、女性は事件以前から元夫によるDVについて現地警察に複数回相談していました。

 

もちろん、すべてのDVが殺人事件に発展するわけではありません。

しかし、

「いつものことだから」

「今日は機嫌が悪かっただけ」

「子どものために我慢しよう」

と暴力を放置することには危険があります。

 

特に、

・暴力が以前より激しくなっている
・殺す、死ねなどの発言がある
・首を絞める行為がある
・刃物などを持ち出す
・別居や離婚の話をすると異常に興奮する
・執拗な監視や追跡をする

といった状況では、証拠収集よりもまず安全確保を優先すべきです。

 

生命・身体に危険が迫っている場合、探偵への相談より先に警察などの公的機関へ助けを求める必要があります。

 

 

警察を呼ぶ

 

 

 

 

■ 2024年、DV防止法は大きく変わった

 

 

2024年4月1日、改正配偶者暴力防止法が施行されました。

大きなポイントの一つが「保護命令制度」の拡充です。

 

従来は、接近禁止命令などを申し立てられるのは、主に身体的暴力や生命・身体に対する脅迫を受けた人でした。

改正後は、生命や身体だけでなく、自由・名誉・財産に対する脅迫についても対象となり得るようになっています。

 

例えば、

 

「外出したらどうなるかわかっているだろう」

「別れるなら性的な画像をインターネットに流す」

「キャッシュカードを取り上げる」

 

などの行為についても、具体的な事情と証拠によっては保護命令の対象となる可能性があります。

 

さらに、重大な危害について従来の「生命・身体」から「生命・心身」へ対象が広げられました。

 

つまり、うつ病、PTSD、適応障害、不安障害など、精神面に重大な危害が生じるおそれについても考慮されるようになったのです。

また、接近禁止命令の期間は従来の6か月から1年間へ延長されています。

 

 

法改正

 

 

 

 

■ AirTagなどを使った位置監視も法律の対象へ

 

そして、さらに注目したいのが2025年末の法改正です。

 

最近はGPS機器だけでなく、AirTagなどの「紛失防止タグ」を車やバッグなどに忍ばせ、相手の居場所を調べる行為が問題となっています。

 

こうした状況を受け、2025年12月30日に施行された改正配偶者暴力防止法では、紛失防止タグなどを利用して本人の承諾なく位置情報を取得する行為についても、接近禁止命令等における禁止行為の対象に加えられました。

 

イヤホンなど、同様に位置情報を特定できる機能を持つ機器も対象になり得ます。

 

これは探偵という仕事をしている私たちにとっても非常に重要な改正です。

「夫に行動を監視されている気がする」

「別居したはずなのに、なぜか居場所を知られている」

という相談の場合、単なる思い込みと決めつけるべきではありません。

 

スマートフォンの位置情報共有設定、車両、バッグなどを含め、位置情報が取得される原因を慎重に確認する必要があります。

 

 

GPS

 

 

 

 

■DV被害で重要になる「証拠」

 

 

DV相談で非常に難しいのが、家庭内で起こった出来事は第三者が見ていないことが多いという点です。

 

夫婦双方の主張が、

「殴られた」

「殴っていない」

「脅された」

「そんなことは言っていない」

となってしまえば、第三者には何が事実なのか簡単には判断できません。

 

だからこそ重要なのが、客観的な記録です。

 

例えば、

・暴言や脅迫の録音
・LINE、メール、SNSのメッセージ
・怪我をした際の写真
・医師の診断書
・壊された家具や物の写真
・警察や相談機関への相談記録
・いつ、どこで、何をされたかという記録

などです。

 

特に2024年の法改正では、精神的な重大な危害を理由として保護命令を申し立てる場合、症状を立証するため医師の診断書が重要になることが内閣府から示されています。

 

証拠は「多ければよい」というわけではありません。

重要なのは、それぞれの証拠が時系列でつながり、第三者が見ても状況を理解できることです。

 

 

証拠

 

 

 

 

■では、DV被害に対して探偵は何ができるのか

 

ここは誤解してほしくない部分です。

探偵は警察ではありません。

 

加害者を逮捕することもできませんし、裁判所のように接近禁止命令を出すこともできません。

 

また、生命や身体に差し迫った危険がある状況で、探偵が警察の代わりになることもできません。

 

それでは、探偵には何ができるのでしょうか。

 

私たちができることの一つは、

「依頼者自身では確認することが難しい事実を、第三者として調査し、客観的な資料として残すこと」

です。

 

例えば、別居後にも配偶者が自宅や勤務先周辺に現れている場合、その行動を確認し、日時・場所・状況を記録する。

 

継続的なつきまといや待ち伏せが疑われるのであれば、その事実関係を確認する。

 

相手が

「会社には行っていない」

「自宅には近づいていない」

と主張している場合、実際の行動を調査する。

 

必要に応じて、写真や映像とともに調査報告書として整理する。

こうした調査結果が、その後、警察や弁護士、裁判所などへ相談する際の判断材料になることがあります。

 

 

 

真相究明

 

 

 

 

■「証拠を取るために我慢する」は間違い

 

ただし、探偵として強く伝えておきたいことがあります。

 

「証拠を取るために危険な場所に居続けてはいけません。」

 

例えば、

「もう一度殴られれば録音できる」

「暴力を撮影するまで家を出ない」

と考えるのは非常に危険です。

 

証拠を取ることより依頼者の生命と身体の安全が優先されます。

 

危険性が高いと判断される案件では、まず警察、配偶者暴力相談支援センター、弁護士などへの相談を勧め、その上で「探偵が担当すべき部分」を切り分けることが重要です。

 

 

 

我慢してはダメ

 

 

 

 

 

 ■「証拠」と「安全確保」を同時に考える

 

DV問題では、

「暴力があったかどうか」

だけを見るのでは不十分です。

 

重要なのは、

・現在どの程度危険なのか
・加害者がどのような行動をしているのか
・別居後も接触しているのか
・位置情報を監視されていないか
・警察や裁判所へ提出できる資料があるのか

 

を一つずつ整理することです。

 

 

裁判所の保護命令では、配偶者だけでなく事実婚の相手や、一定の場合には生活を共にする交際相手からの暴力も対象となります。

法律婚ではないから何もできない、と決めつける必要はありません。

また男性被害者も制度の対象です。

 

 

 

DVの証拠

 

 

 

 

■探偵は「真実を明らかにする」役割

 

DV問題では、感情と事実が入り混じります。

 

長期間暴力や威圧を受けていると、

「自分にも悪いところがあるのではないか」

「これくらいで相談していいのだろうか」

と被害者自身が判断できなくなっていることもあります。

 

しかし、殴られた事実、待ち伏せされた事実、勤務先まで来た事実、位置を監視された事実は、感情とは別の「事実」です。

 

私たち探偵の仕事は、夫婦のどちらが正しいかを感情で決めることではありません。

「実際に何が起きているのかを確認し、その事実を客観的な証拠として残すこと。」

そこに探偵の役割があります。

 

DVで悩んでいる場合、最初から「探偵に依頼するべきか」と考える必要はありません。

まず現在の状況を整理してください。

 

そして危険が迫っているのであれば、迷わず警察などの公的機関へ相談してください。

 

その上で、

「相手の行動を確認したい」

「つきまといの事実を証明したい」

「警察や弁護士へ相談するための客観的な資料が欲しい」

という場合には、探偵による調査が役に立つ可能性があります。

 

家庭内で起きていることだからといって、一人で抱え込む必要はありません。

 

DVは家庭だけで解決しなければならない問題ではないのです。

 

(この記事は2026年8月公開しました。法改正や制度改正によりこの記事に記載の情報が古い場合がございます。)