民泊投資詐欺
「信じていた相手が、実在しない民泊事業を語っていたとしたら…」
ご依頼者様は都内在住の50代男性・Aさん。
きっかけは、半年前に始めたマッチングアプリでした。
仕事や趣味の合う人と出会いたいという軽い気持ちで登録したところ、数日後に30代半ばの女性・Bさんから「いいね」が届きました。
プロフィール写真は明るい笑顔、職業は「フリーランスで民泊事業を運営中」と記載されており、英語堪能で海外旅行が趣味とありました。
メッセージを交わすうち、Bさんは投資や副業の話題を自然に挟んできました。
「民泊って今、すごく伸びてるんですよ。特にインバウンドが戻ってきていて、都内や観光地では稼働率も高く、利回りも安定してます」
「少額から始められるから、もし興味があれば…」
最初は冗談半分に聞き流していたAさんですが、Bさんの語る具体的な稼働状況や物件の写真(後にネットからの流用と判明)を見せられ、「こんなに細かい数字を話せるなら本物だろう」と思うようになりました。
■最初の100万円
会って3回目の食事の席で、Bさんはこう切り出しました。
「知り合いの投資枠が一つ空いたんです。もし興味があれば、Aさんにも紹介できます」
投資額は100万円。
Bさんは
「初月から配当が出ます」
「契約書もあります」
と説明し、その場でLINEにPDFファイルを送ってきました。
契約書には「民泊運営会社C社」「投資者A氏」といった記載があり、法人印も押されていました。
「これなら安心だろう」と判断したAさんは、その週のうちにBさん指定の口座へ100万円を振り込みました。
■配当が毎月きちんと
驚いたことに、その翌月末には約5万円の配当金が振り込まれました。
「ちゃんと入ったんだ」
その後も、毎月遅れなく同額の配当が振り込まれ、Aさんの信頼はさらに強まりました。
3か月目にはBさんから再び連絡がありました。
「別の物件が始まるんですけど、既存の投資家に優先案内があって…」
Aさんは迷った末、さらに100万円を追加投資しました。
■不安の芽
配当は引き続き振り込まれていましたが、Bさんの話には次第に食い違いが見えるようになりました。
・「京都で新規オープン」と言っていたはずが、翌月には「沖縄物件の稼働が好調」と説明
・送られてくる物件写真が、以前に見た別の観光ブログと同一
そんな中、Aさんが
「そろそろ利益も出てきたし、一部解約して現金化したい」
と伝えると、Bさんは急に態度を硬化させました。
「今は契約上、解約できません」
「投資は長期前提ですから」
何度お願いしても返答は同じ。
「状況が変わったから」の一点張りで一部解約には全く応じてくれませんでした。
■当探偵事務所へのご依頼
「本当に民泊をやっているのか? それとも全部嘘なのか?」
Aさんは当探偵事務所に相談されました。
調査の目的は3つ。
1. 運営会社C社が実在し、民泊事業を行っているのか確認すること
2. 投資金が実際に事業に使われているのかを可能な限り把握すること
3.Bさんの素性
■調査開始
まず、契約書に記載されたC社を登記簿で調査。
結果は「該当なし」。
法人番号も存在しませんでした。
住所として記載されていた東京都内のビルを現地確認すると、テナント案内板にC社の名前はなく、全く別業種の企業が入居していました。
次に、Bさんが送ってきた民泊物件の写真を画像検索。
そのほとんどが、不動産会社や旅行ブログの画像を無断転載したものであることが判明しました。
さらに、Bさんの素性も調査。
マッチングアプリで使用していた氏名は偽名で、実際には関東近郊に住む別名義の女性でした。
SNSアカウントを突き止めると、同様の「投資案件」に関わっている可能性を示す投稿や、過去に複数人から詐欺被害を告発されている痕跡が見つかりました。
■決定的証拠
調査の過程で、Bさんが特定日に「民泊物件の現地確認に行く」と話していたため、Bさんを尾行。
Bさんは午前中に自宅を出たあと、都内のマンションに入りました。
民泊の下見とのことだったので、納得できる行動でしたが、そのまま張り込みを続けると、数時間後に男性と共にマンションより出てきました。
二人は仲良さげで、手を繋いで歩く姿が見受けられました。
後日、補足調査を実施したところ、このマンションは民泊禁止のマンションであり、
マンションの部屋は男性の自宅であると判明しました。
民泊事業とは一切、関係がありませんでした。
■調査結果報告
Aさんにお渡しした報告書には以下の内容を記載しました。
・C社は実在せず、登記なし
・物件写真はネットからの流用
・民泊運営の実態は確認できず
・Bさんは偽名を使用し、過去にも投資トラブルの関与が疑われる
Aさんはこの報告を基に、弁護士を通じてBさんに対して返金請求と損害賠償請求の準備を進めています。
■探偵の視点
この事案は、典型的な「ポンジ・スキーム」に近い手口でした。
最初は配当をきちんと支払い、信用を得た後に追加投資を促す。
そして、投資元本の返還は「契約上できない」と拒否。
恋愛感情や信頼関係を利用した投資詐欺は、証拠収集を怠ると被害回復が極めて困難になることがあります。
今回のケースでは、契約書・振込記録・やり取りのスクリーンショットが残っていたこと、そして当探偵事務所の調査で事業実態が存在しないことを裏付けられたことが大きな成果となりました。
(掲載許可ありがとうございます)